がん免疫療法の科学の探求

なぜ免疫療法に奏効する人としない人がいるのか?その研究について探る

がん免疫療法とその研究が目指すのは、がんとの闘いに打ち克つことです。2017年2月、米国臨床腫瘍学会(ASCO)は、がん免疫療法を『アドバンス・オブ・ザ・イヤー(その年における最も目覚ましい研究上の進歩)』に2年連続で選出しました。ブリストル・マイヤーズ スクイブ社 トランスレーショナル・クリニカル・デベロップメント&ファーマコダイアグノスティックス部門バイスプレジデントのスティーブン・エイバーブッシュは、「画期的ながん免疫療法のアプローチに基づいた膨大な量のトランスレーショナル・リサーチが進行中であり、大いに期待しています」と語ります。

しかし、これまでの進歩にもかかわらず、がん免疫療法に奏効するかどうかは、患者層やがん腫別に依存し、奏功する患者さんの割合は、全体の50パーセント未満にとどまっています。このような統計データは、私たちにこんな問いを投げかけています。「なぜ、がん免疫療法に奏効する人としない人がいるのか?」

過去20年近くにおよぶ免疫療法の研究から得た知識を足掛かりに、ブリストル・マイヤーズ スクイブの研究者たちは、最先端のテクノロジーを駆使し、この問いに対する答えの究明を加速させています。がんの生物学や免疫系を細胞レベルで研究し、腫瘍データバンクや臨床試験から得られた大量のゲノムデータを分析し、バイオマーカーやコンパニオン診断薬を用いて治療の意思決定を迅速化させているのです。 

 

ニルス・ロンバーグ

ブリストル・マイヤーズ スクイブのがん免疫療法の専門家たちは、生物学的発見からトランスレーショナル・サイエンスまで、次世代の免疫療法の発見・開発・設計にあくなき情熱を注いでいます。

有望な標的を探し求めて

標的の探索は、がんの生物学と人間の免疫系について、できる限り多くの知識を得ることから始まります。オンコロジー・バイオロジー・ディスカバリー部門のシニア・バイスプレジデントであるニルス・ロンバーグは、免疫系の攻撃を逃れて無秩序に増殖するがんの能力には、3つの生物学的機構が関連していると言います。

1.     がん細胞の変異は、常に発現するとは限りません。がん細胞は気まぐれです。細胞の表面に、免疫細胞がその存在を探知し破壊の標的とする、ネオアンチゲンというタンパク質を発現する場合もあれば、しない場合もあります。言うまでもなく、遺伝子変異の総量はがん腫によって異なります。例えば、小児白血病の場合、発現する遺伝子変異は限られており、分子標的療法によって多くの場合コントルール可能です。しかし、ほとんどのがんでは、免疫系が標的にできないほど多くの遺伝子変異が発現し、無秩序に増殖します。

2.     身体の炎症反応のバランスが崩れます。正常な炎症反応では、信号を受けた免疫細胞が問題に即座に対処し、炎症や腫れを引き起こします。指を切って、赤くなったり腫れたりする場合などがこれに当たります。脅威が去ると、別の信号が炎症反応を止め、傷が治癒できるようにします。健康な体は、炎症反応の両方向の経路で適切なバランスを保っています。しかし、腫瘍の場合は、がん細胞が排除される前に炎症抑制信号が増殖性T細胞の応答を停止させてしまうため、このサイクルの途中で止まってしまいます。

3.     がん細胞は常に変異しています。細菌と同様、がん細胞は大きな分子圧の中で常に急速に分裂し、変異し続けています。新たな変異によって、免疫細胞の浸潤の阻止、認識されないための偽装、細胞表面へのそれまでとは異なるタンパク質の発現による以前の治療への耐性の獲得など、免疫細胞からの攻撃を回避するさまざまな方法を身につけるのです。

研究者たちは、研究を進める上で最も有望な標的を特定するために、このような生物学的機構に関連する免疫細胞表面の特定のタンパク質受容体を探します。ブリストル・マイヤーズ スクイブでは、数十の標的の研究がさまざまな段階で進行中です。 

「画期的ながん免疫療法のアプローチに基づいた膨大な量のトランスレーショナル・リサーチが進行中であり、大いに期待しています」――スティーブン・エイバーブッシュ  

ティム・ライリー

「私たちは、サイエンスに最大限基づいた研究を進めています。疾患を研究し、標的候補に関するあらゆる情報を集め、動物実験を実施し、トランスレーショナル・データを検討して、仮説を立て試験し、その結果を検証するのです」と、アーリー・オンコロジー担当バイスプレジデントのティム・ライリーは言います。「結果の如何にかかわらず、その理由も解明します。効果がない理由を理解することは、往々にして、効果がある理由を理解するのと同じくらい重要なのです」    

ブルース・カー

こうしたデータ収集プロセスには、過去の文献のレビュー、『がんゲノムアトラス(The Cancer Genome Atlas)』(33種類のがん腫における遺伝子変異の多次元解析図を有する大規模な公開データベース)の徹底的な調査、臨床試験で患者さんから得た遺伝子データセットの解析が含まれます。「発症率が高く、メディカル・ニーズの高いがん腫で高発現する標的を探します」と、トランスレーショナル・サイエンス部門担当バイスプレジデントのブルース・カーは言います。    

デイビッド・フェルトクエート

治験データの評価

現在、ブリストル・マイヤーズ スクイブでは、さまざまながん腫の異なる免疫系経路をそれぞれ標的とするよう設計された、数多くの分子を研究しています。

オンコロジー・アーリー・クリニカル・デベロップメント部門責任者のデイビッド・フェルトクエートは、次のように話します。「研究から得られた知見に基づいて、治療薬開発プログラムを調整し、その結果をまた研究に活かします。現在利用可能なツールを用い、研究プロセスのより早い段階で、奏効しやすい特性を持つ患者さんを特定することを目指しています。こうした特性の特定によって、プログラム全体に有益な情報が得られます。奏効する可能性が低い患者さんをあきらめるわけではありません。そういった患者さんには、別の薬を提供できる可能性がありますから」

安全性情報や奏効率などの標準的な臨床試験データの収集に加え、ブリストル・マイヤーズ スクイブの研究者たちは、できる限り早く、最高のインサイトを提供するための新しい方法を開拓しています。    

「適切な薬を適切な患者さんに提供できるよう、バイオマーカーやコンパニオン診断薬の専門知識を持つパートナーと積極的に連携しています」――アニル・カプール

アニル・カプール

「最高のカスタマー・エクスペリエンスを実現し、適切な薬を適切な患者さんに提供できるよう、診断薬に関する専門知識を持ち、世界中の市場で事業展開するパートナーと積極的に連携しています」と話すのは、がん免疫療法アーリー・アセット& バイオマーカー・コマーシャリゼーション部門バイスプレジデントのアニル・カプールです。バイオマーカーは、腫瘍と腫瘍微小環境の特徴を明らかにすることによって、患者さんが免疫療法にどう反応するかを予測するための情報を提供します。コンパニオン診断薬は、提供可能な治療法が奏功する患者さんを特定するために使用されます。    

スティーブン・エイバーブッシュ

次世代のがん免疫療法研究の追求

次世代のがん免疫療法研究が、すでに業界全体で進められています。それに伴い、複数のがんの標的に同時に作用する可能性がある併用療法の研究へと、興味深いアプローチの変化が起きています。

「がんが複数の照明がついた部屋のようなものだとしたら、標準的な化学療法は、全ての照明を一度に壊して消すようなものです」と、スティーブン・エイバーブッシュは話します。「主に単一の変異によるがんを分子標的薬で治療する分子標的療法は、部屋の大部分の照明を制御する一つのスイッチを切るのに似ています。現在、がん免疫療法において当社が研究対象としているのは、がんという部屋にある照明の各種スイッチ群全体です。将来的には、患者さんの治療過程に応じて、それらを異なる順序や組み合わせで消せるようになることを目指しています」

また、ますます増えてきているバイオテクノロジー企業や学術研究機関とのコラボレーションによって、がんの性質に関する新たな知識の活用が可能になり、インフォマティクスなどのツールによる、過去には不可能であった新たなデータの応用方法が実現します。

「もう少しで、がん免疫療法に奏効する人とそうでない人がいる理由が分かるようになるでしょう。私たちの目標は、がんという部屋に点いている灯りを永遠に消し去ることができる日が来ることを願って、前進し続けることです」とエイバーブッシュは言います。