プレスリリース
切除不能大腸がん治療薬アービタックスとベバシズマブ、初の直接比較第III試験「FIRE-3」
世界消化器癌学会議(WCGIC)で追加データを発表
2013/07/12
※本資料は、Merck KGaA(ドイツ)の医薬品部門であるMerck Serono社が、2013年7月6日に発表したプレスリリースを日本語に翻訳再編集し、皆さまのご参考に供するものです。内容につきましては原本である英文が優先します(WCGIC Abstract Number: O-0029)。
- ASCO2013での発表の通り、「FIRE-3」試験の主要評価項目(客観的奏効率)は、包括解析(ITT)では達成されませんでした(アービタックス群62%、ベバシズマブ群58%、オッズ比1.18)。
- 57%のイベントに基づき、アービタックス+FOLFIRI併用群は、ベバシズマブ+FOLFIRI群と比較して、3.7カ月の臨床的意義のある生存期間中央値の延長が認められました(二次評価項目)。
- 予め計画された探索的解析の新たなデータでは、二次治療における分子標的治療に関して、病勢進行後のクロスオーバーまたは投与継続はバランスのとれたものであったことが示されました。また、二次治療における化学療法レジメンの間に大きな不均衡は見られませんでした。
メルク(ドイツ・ダルムシュタット市)の医療用医薬品部門であるメルクセローノ社は本日、ドイツの治験協力グループであるAIO(Arbeitsgemeinschaft Internistische Onkologie)から、アービタックス®(一般名:セツキシマブ)とベバシズマブを直接比較する第III相臨床試験「FIRE-3」の追加データが世界消化器癌学会議(WCGIC: World Congress on Gastrointestinal Cancer)で報告されたことを発表しました。今年6月に開催された第49回米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次会議で報告された通り、この試験の主要評価項目である客観的奏効率(ORR)は達成されませんでしたが、一次治療でアービタックス+FOLFIRIを併用したKRAS野生型の切除不能大腸がん患者群において、ベバシズマブ+FOLFIRI併用群と比較して、3.7カ月の臨床的意義のある全生存期間(OS)中央値の延長が認められたと報告されました。
なお、この結果はまだ完全ではなく(イベント発生率57%)、今後更新されていきます。WCGICで発表されたこの追加データから、二次治療で投与する分子標的治療薬(抗EGFR抗体またはベバシズマブ)に関して、病勢進行後、期待された通りバランスのとれたクロスオーバーまたは継続投与が明らかになりました。二次治療では、アービタックス群204例のうち46.6%がベバシズマブを投与され、ベバシズマブ群191例のうち41.4%が抗EGFR抗体薬を投与されました。ベバシズマブは、患者の17.3%で病勢進行後も継続して投与され、抗EGFR抗体は、一次治療でアービタックスを投与された患者のうち15.2%に投与されました。二次治療で使用された化学療法に関して、大きな不均衡は見られませんでした(※1)。
FIRE-3試験の治験責任医師であるドイツ・ミュンヘン大学医学腫瘍学教授、フォルカー・ハイネマン博士(Volker Heinemann, MD, PhD)は、次のように述べています。「これらの追加データから、セツキシマブ群で認められた全生存期間の延長は、二次治療でのクロスオーバーや化学療法の不均衡によるものではないと判断できます。この試験の解析を進めることにより、治療薬の投与順が果たす重要な役割についての示唆が得られると期待しています。」
愛知県がんセンター中央病院薬物療法部長/外来化学療法センター長 室 圭先生は、次のように述べています。 「FIRE-3試験は、KRAS野生型大腸癌の一次治療における最善の治療選択肢を決定し得る重要な試験です。今回報告された最新のデータとエビデンスは、試験の理解を深めて結果の意義を解釈する上で、重要な情報を包含しております。本試験の解析がさらに進み、類似の他試験も含めて新たな知見が得られることにより、今後の大腸癌患者の治療に寄与することを期待しています。」
FIRE-3試験は、ドイツ・ミュンヘンにあるルートヴィヒ・マクシミリアン大学が指揮する独立の第III相無作為化直接比較対照試験です。メルクセローノGmbHは、この試験に資金提供しています。FIRE-3試験は、切除不能大腸がん患者752名を対象としてヨーロッパで実施されています。そのうち592名は、KRAS遺伝子野生型であることが確認されています。このうち、297名がアービタックス+FOLFIRI群、295名がベバシズマブ+FOLFIRI群に無作為に割り付けられました(※2)。アービタックスとFOLFIRIの併用は、KRAS遺伝子野生型の切除不能大腸がんの一次治療として既に承認されています。
2013年米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表されたFIRE-3試験のデータから、全生存期間(副次評価項目)は、アービタックス+FOLFIRI群で28.7カ月、ベバシズマブ+FOLFIRI群で25.0カ月であることが示されています(ハザード比:0.77、95%信頼区間:0.62–0.96)。FIRE-3試験の主要評価項目である登録医評価によるORRは達成されませんでしたが、アービタックス併用群はベバシズマブ併用群と比較してORRの改善傾向が認められました(アービタックス併用群62%、ベバシズマブ併用群58%、オッズ比:1.18)(※2)。どちらの群においても、新たな安全上の懸念は報告されず、毒性プロファイルは予測された範囲の管理可能なものでした。ASCOで報告され、両群で一般的に見られた有害事象(10%以上)は、白血球減少症、貧血、血小板減少症、好中球減少症、嘔気、嘔吐、下痢、粘膜炎・口内炎、疲労感、疼痛、手足症候群、高血圧、出血、低マグネシウム血症、低カルシウム血症、落屑でした。アービタックス群で最も多く報告されたグレード3、4の有害事象は、好中球減少症(24.2%)とざ瘡様皮疹(16.8%)でした。ベバシズマブ群で最も多く報告されたグレード3、4の有害事象は、好中球減少症(22.8%)と下痢(13.6%)でした。
大腸がんは、世界で4番目に多いがんであり、120万人以上が罹患していると推定されます3。世界では、毎年608,000人が大腸がんで亡くなっています。これはがん死亡全体の8%に相当し、がん死因では第4位となっています(※3)。60%近くが先進国で発症しており、罹患率および死亡率は女性よりも男性の方が大幅に高くなっています(※3)。ヨーロッパだけでも、毎年450,000人が大腸がんに罹患し、この病気で年間に約222,000人が亡くなっています。
参考文献
- Heinemann V, et al.Randomized comparison of FOLFIRI plus cetuximab versus FOLFIRI plus bevacizumab as first-line treatment of KRAS wild-type metastatic colorectal cancer(KRAS遺伝子野生型転移性大腸がんの一次療法としてのFOLFIRI+セツキシマブ群とFOLFIRI+ベバシズマブ群の無作為化による比較):ドイツAIOの試験KRK 0306(FIRE-3)。2013年7月6日の世界消化器がん会議(WCGIC)で発表
- Stintzing S, et al.FOLFIRI plus cetuximab versus FOLFIRI plus bevacizumab as first-line treatment for patients with metastatic colorectal cancer-subgroup analysis of patients with KRAS:mutated tumours in the randomised German AIO study KRK-0306(KRAS変異を有する患者のサブグループ解析による転移性大腸がん患者の一次療法としてのFOLFIRI+セツキシマブ群とFOLFIRI+ベバシズマブ群の比較):無作為化したドイツAIOの試験KRK-0306。Ann Oncol 2012;23(7):1693–1699.
- Ferlay J, et al.GLOBOCAN 2008 v2.0, Cancer Incidence and Mortality Worldwide(世界のがん発症率と死亡率):IARC CancerBase No. 10 [インターネット].フランス・リヨン:国際がん研究機関(IARC)、2010年。http://globocan.iarc.frから入手可能。2013年7月アクセス確認
大腸がん及び頭頸部がんにおけるアービタックスの詳細な情報については、以下のサイトをご覧ください。
www.globalcancernews.com
アービタックス(Erbitux)について
ErbituxはファーストインクラスのEGFRを標的とするIgG1モノクローナル抗体です。Erbituxの作用機序は、モノクローナル抗体として、EGFRに対して特異的に結合するという点で従来の標準的な化学療法とは明確に異なります。EGFRに結合することによって受容体の活性化と下流のシグナル伝達が阻害され、正常組織への腫瘍細胞の増殖、浸潤と転移が抑制されます。また、化学療法や放射線療法によって引き起こされた損傷を修復する腫瘍細胞の活性を抑制し、腫瘍内血管新生を抑制するとも考えられており、それによって腫瘍の増殖を全体的に抑えるとされています。
Erbituxの最も多い副作用はざ瘡様皮疹であり、皮疹の程度(グレード)と治療効果は相関があると報告されています。また、日本人の結腸直腸がんの患者さんを対象とした使用成績調査において、約5%に過敏反応(インフュージョン・リアクション)が発生し、このうちの約2分の1が重度な症状を示しました。
Erbituxは92カ国で市販承認を取得しており、大腸がんの治療薬としても92カ国で承認されています。また、局所進行の扁平上皮頭頸部がんの治療薬として、90カ国で承認を受けています。
独メルクは1998年、イーライリリーの100%子会社であるイムクロンから米国、カナダ以外でのErbituxの販売権をライセンス供与されました。日本では、イムクロン、ブリストル・マイヤーズスクイブ、およびメルクセローノ株式会社が共同でErbituxの開発と実用化を進めており、ブリストル・マイヤーズ株式会社とメルクセローノ株式会社が販売提携をしています。独メルクはがん治療の進展に引き続き尽力しており、対象領域における新規治療法の研究に取り組んでいます。
ブリストル・マイヤーズ株式会社について
ブリストル・マイヤーズ株式会社は、「深刻な病気を持つ患者さんに貢献するための革新的な医薬品を研究開発し、患者さんのもとへお届けすること」をミッションとする、グローバル製薬企業ブリストル・マイヤーズ スクイブ カンパニーの日本法人です。伝統的な製薬企業としての基盤と最先端のバイオテクノロジーという2つの特徴を兼ね備えた「バイオファーマ」戦略を掲げ、いまだ十分な治療法がない疾患領域を中心に革新的な医薬品を提供できるよう、世界に約27,000人以上の社員が事業に従事しています。詳細についてはhttp://www.bms.co.jp/にてご覧ください。