誤解や偏見を減らすため、乾癬という病気をもっと知ってほしい。

中野功八郎さん(病名:尋常性乾癬、乾癬性関節炎)

2023/10/27     

わずかな赤い湿疹が、当時は治らないといわれていた乾癬の症状の始まりでした。かゆみは全身へと広がり、中野さんは次第に関節の腫れや痛みにも悩むように。一時期は歩くのも辛く、車椅子での生活も覚悟をしたときに出会ったのが患者会でした。そこで従来とは異なる治療に臨む勇気をもらい、今は寛解状態を維持しています。現在は情報を伝える側として、患者会の活動を精力的に行っています。

名前も知らなかった皮膚病は
完治の難しい乾癬でした

「最初に症状が現れたのは20歳ころでした。頭に赤い湿疹が2、3個できて、最初はアトピー性皮膚炎かなと思っていました」。
そう話してくれた中野さん。すぐに近くの皮膚科へ行き、ステロイド剤を処方してもらいました。しばらくすると症状は治まったそうですが、薬をやめると、またすぐに湿疹ができてしまいました。湿疹はかゆみを伴い、思わずかいてしまうとフケのようなものがポロポロと落ちるのも気になったそうです。中野さんは、近所にある皮膚科を何軒かめぐりましたが、やはり薬は一時的にしか効かず、何度も再発してしまうことに頭を悩ませていました。

「そこで大学病院へ行き、専門医に診てもらうことにしました。遺伝的な検査も含めていろいろと調べてもらい、やっと乾癬がわかったのです。実は、そのときに初めて乾癬という病気を知りました。どんな病気なのかわからず戸惑っていたところ、医師からは『治る病気でないので一生つきあっていきなさい』と言われ、愕然としてしまいました」。
当時は本やインターネットにもあまり情報がなく、乾癬がどのような病気なのかを調べるのにも苦労をしたそうです。そして医療が発達しているにも関わらず、「なぜ治らないのか」と思い悩み、諦めにも近い気持ちを持ったこともありました。

そして病気が進行するにつれて、症状もいろいろと出てくるようになりました。患部が徐々に広がり、鱗屑(りんせつ)と呼ばれる銀白色のフケのようなものが絶えず落ちてくるようになると、黒っぽい色の服を着ると目立ってしまうため服装を選ぶように。風呂に入ると鱗屑が大量に落ちるため、湯を入れ替えなければならないこともありました。患部のかゆみもひどくなり、思わず掻いてしまうと血がにじむようにもなったそうです。日中は患部に触れないように気を付けていても、睡眠時には無意識にかいてしまい、目が覚めるとシーツに血がついていたこともありました。治療は続けていましたが徐々に病気が進行し、関節にも腫れや痛みが出るようになっていました。そして発病から20年ほど経ったころ、とうとう指の関節に症状が現れ、指先が固まって動かなくなってしまったそうです。
「そのときが一番辛かったです」。

患者会の方の一言から
新しい治療へ踏み出す勇気をもらいました

湿疹から始まり、かゆみと一時期は激しい痛みに耐えながら、生活を送っていた中野さん。
「足の裏までズキズキと痛み始めたときは歩くのが辛くて、車椅子での生活を考えたこともあります」。

そうした時期に、地元で乾癬の学会が行われることになりました。そこでは患者会が主催した学習会も行われると知り、乾癬という病気や治療の知識を得たいと思った中野さんは出席を決意。その勉強会のあとに行われた懇親会で、同じ病気を持つ方々からいろいろな話を聞く機会がありました。

「それまで、患者会に対して勝手に暗いイメージを持っていました。実際はまったく違っていて、前向きに治療に取り組んでいる方々ばかりでした。ちょうどそのころ、点滴や注射を使った新しい治療薬が承認されたのですが、私は費用面から躊躇していたので、その話をしてみました。すると、相談に乗ってくれた患者会の方が『乾癬を治して、元気に稼いだら?』と言ってくれたのです。痛みをこらえて不自由な生活を続けるより、自分に合う治療を模索して元気に仕事したほうがいいと、その一言で決断することができました」。

新しい治療薬は、車椅子での生活を覚悟していた中野さんの生活を劇的に好転させてくれました。関節が痛くて何もできず、希望も持てなかった生活から寛解状態まで回復し、今では鱗屑に悩むことなく日常生活を送れるようになりました。

「一昔前までは、乾癬は治らない病気だと言われていましたし、薬も数えるほどしかありませんでした。今では塗り薬だけではなく、飲み薬や注射、点滴といったさまざまな治療方法があり、症状をコントロールしたり、寛解状態を維持したりすることができるようになりました。そうした治療に出会うためにも信頼できる皮膚科の専門医に診てもらって、一歩前に進むことが大切だと思っています」。

患者会を通じて乾癬への理解を深め
誤解と偏見のない社会へ

現在の中野さんは、仕事や趣味のランニングやハイキング、温泉巡りと充実した日々を送っています。そして、同じ病気を持つ方々に少しでも情報を伝えたいと、患者会の役員も務めています。日本国内には乾癬の患者数はおよそ43万人と推定されています1。しかし、どのような病気なのかは、あまり知られていないというのが実情です。

「かゆみなどの症状に悩まされていても自分が乾癬だと気がついていない方や、病院に通っていても、乾癬と診断されずに適切な治療を受けてない方もいると思います。そうした方々にも情報が届き、適切な治療を受けていただけるよう、発信を続けていきます。もちろん、乾癬だとわかっている方にも、それぞれの方にあった適切な治療方法を知ってもらい、患者会の活動についても興味を持ってもらいたいと思っています」。

中野さんは、治療の選択も患者自身が主体性を持つことが大切だと考えています。
「今はいろいろな治療方法、治療薬があるので、医師に任せきりにするのではなく、どの範囲まで治したいのかという自分の意思を示すことが大切です。『治療をして、どういう生活をしたいのか』を主治医と話し合い、その上で治療方針をしっかりと決めて、治療に取り組んでほしいですね」。

そして、周囲の方々にも乾癬の知識を持ってもらいたいとも願っています。皮膚病というだけで「乾癬はうつる病気」だと誤解をしている人がいます。また、鱗屑を見て清潔感がないと考える方もいるようです。

「うつらない病気なので、もちろん同じ風呂に入っても大丈夫。私は、患者会の方と一緒に温泉旅行をしたこともあります。誤解や偏見に悩む乾癬患者さんも多いので、少しでも乾癬への理解が進むように、患者会では勉強会を開くなど、患者さんのみならず、周囲の方々にも乾癬について知ってもらえるよう、日々地道な活動を続けています」。
中野さん自身は、一番身近な奥様がいつも側で支え、応援してくれたそうです。奥様の後押しがあって、新しい治療にも挑戦できました。

「理解をしてくれる人が側にいてくれるのは心強いですね。私は適切な治療にであって寛解状態を維持できています。乾癬で悩む人には、後悔しない治療方法を選んでもらい、人生を楽しんでほしいと伝えていきたいですね」。

  1. Kubota K, Kamijima Y, Sato T, et al. Epidemiology of psoriasis and palmoplantar pustulosis: a nationwide study using the Japanese national claims database, BMJ Open 2015;5